錯視の科学館 展示  
Science Museum of Visual Illusions, Japan
     
     
ミネアポリス・セントポール国際空港の錯視
   
                 
                 
            2014/4/13   新井仁之

                 
   数学者の古田幹雄教授(東大数理)より、ミネアポリスの空港の床に錯視が起こるデザインがあるというメールと写真をいただきました。古田先生によると、平らなのにでこぼこしているような錯覚に陥り、自分が歩いている地面が、歩くにつれて動くように感じられたとのことです。面白いので許可を得て写真をアップしました。  
     
  空港の床の錯視  
  ミネアポリス・セントポール国際空港の床の錯視(古田幹雄氏撮影)   
     
   ところで、この床のデザインを見ると幾何学的に整ったどこかにありそうなタイリング模様です。これを作った人が錯視を意図して考えたのか、それとも図らずも錯視が起ってしまったのか、何とも言えません。
 いずれにせよ、白と黒の正方形からなる幾何学的に整ったデザインなのに、どうしてでこぼこ感を感じてしまうのでしょう。それを少し考えてみたいと思います。
 まずキーワードとなるのはミュンスターベルク錯視(あるいはカフェウォール錯視)と呼ばれる錯視です。これは、 
 
     
ミュンスターベルグ錯視
     
   のように白と黒の四角形が交互に水平方向に並んだ列を、少しずらして並べると、中央の水平な境目の線が右上がりに見えるというものです。
 一方、ミネアポリスの空港の床のデザインの基本パターンは
 
     
  ミュンスターベルグ錯視  
     
    であり、中央の水平な境目がやや右上がりに見えます。これは、白いタイルの縦の境目を消してみると  
     
  ミュンスターベルグ錯視  
     
  となっており、白の長方形が少しずれて並んでいるので、基本的にはミュンスターベルク錯視です。(中央の水平な境目の線がやや右上がりに見えます。)
 ところで、ミュンスターベルク錯視はパターンを反転すると水平線が右下がりに見えるので、空港のデザインの基本パターンを反転すれば
 
     
  ミュンスターベルグ錯視  
     
  となり、中央の水平な境目はやや右下がりに見えます。
 このように、ミュンスターベルク錯視と同じ基本パターンをもつ空港の床のデザインでは、水平線であるにもかかわらず線が傾いて見えるようになっています。こういった錯視を利用すれば、水平線・垂直線だけからなるにもかかわらず、曲線座標のように見えるものをつくれ、平坦な面が歪んで見えるようにもできます。空港のパターンの場合、その効果が(意図してか偶然か)使われて
 
     
  空港の床の錯視  
     
  のように膨らんで見えるようになっています。一方、もう一つのパターンは  
     
  空港の床の錯視  
     
  のように凹んで見えるようになっています。
 このように膨らんで見える、あるいは凹んで見えるデザインは実際に曲がっている曲線を使えば容易にできます。たとえば、
 
     
  座標空間  
     
  このデザインの面白いところは、水平線・垂直線からなるにもかかわらず、傾きの錯視を利用して、このような膨らみや凹んだ曲面であるかのような錯視を生じさせているところです(後注参照)。
 じつはこのデザインには、巧妙な点が一つあります。それは、白い正方形がずれて配置されるミュンスターベルグ錯視のパターンが横方向にできる(下図①)と同時に、自動的に(自然に)縦方向にも同様のパターンが形成されている(下図②)ことです。これにより、水平線も垂直線も同時に傾いて見えるようになっています。錯視的には実に巧妙なデザインになっているわけです。
 
            カフェウォール錯視  
     
  そして、水平線・垂直線からなるという特性が使われて、膨らんで見えるパターンと凹んで見えるパターンがつなぎ目なく半分重なるようになっています。つまり、  
     
空港の床の錯視 
     
  のようにできています。このため、左の方に視点が合うと凹んで見え、すぐその右隣に視点が合うと膨らんで見えるのです。空港の床はこのパターンが並んでいるので、歩きながら見ると、凹んで見えるパターンの部分と、膨らんで見えるパターンの部分に次々と視点が移動し、凹んだり膨らんだりが繰り返されることになります。  
     
     
  錯視に関するヒストリカルな注.  
  各種の傾き錯視のパターンを使って、面が膨らんで見える錯視、あるいは凹んで見える錯視ができることは北岡明佳氏によりはじめて示されました(北岡明佳著『錯視入門』(朝倉書店) pp.22-23)。北岡氏によるさまざまな作品が北岡明佳著『錯視大解析』(カンゼン,2013)に掲載されています.  
     
                 

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